クリスマスイブイブ。

 まあ風物詩なのでクリスマス小話。今年は各地で雪も降ってるみたいだし。そこんとこどーなのよってな感じ。てことで前回のがいざめる小話完結編じゃなかったのかというつっこみはナシの方向で。一日早いけども良いクリスマスを〜…なんてな〜w

(クリスマス小話:スノウバウンドパーティ)

「こぽこぽこぽ…」

 …なんだろ…

 目を覚ましたメルは布団の中で隣の部屋から聞こえるその音をぼんやり聞いていた。

 …どうしたんだっけ?

「カタン…コト…コトン」

 …あついなぁ…あ…そか…熱が出て寝込んでるんだっけ。

 長いまどろみの中から抜け出そうとメルは上体に力を入れるが熱のせいかすぐに力が抜けていく。少し起きようと試みるも上手に起き上がることが出来ず、結局諦めた。本当なら楽しいクリスマスになるはず…だったのに。
 
 ここはメルのアパート、今はメルと十六夜のアパートであるが。その寝室のベットの上、一人で寝るには広すぎるし二人で寝るには少し手狭な…だけどそれが嬉しくもあるセミダブルのベットの上で一人メルは思う。
 今日はクリスマスイブと言うこともあって、街中にぎやかなクリスマスソングが流れているはずで。美しくライトアップされた街は一年に一度だけ、どこか華やかでにぎやかでそして少しだけ厳かでロマンチックな表情を見せているはずで。本当なら今頃はなじみの仲間達と山猫亭で大騒ぎしてるか…それとも華やかな街を寒いけど心まで寒くならないよう腕を組んで歩いてるか、もしくは居住区を覆う天幕の中心、そこに建造された新しい展望室でゆっくりとラグオルの反射光を眺めながらの素敵な夜を過ごしているはずなのに。どうして今日になってこんな事に。とは言え数日前よりその予兆はあったのに養生をしなかったのは自分である。だらしのない自分自身を恨めしく思いながらメルは大きく溜息をついた。
 隣の部屋には当然ながらヒトの気配、同居人十六夜の気配はある。だけどどこか申し訳なく思うメルは目を覚ました今も声を掛ける訳でもなくただその音にだけ耳を澄ませていた。

 カチャカチャとなるのはいっちゃんのお茶碗と箸の音。んふ、今日みたいなクリスマスでも和食だ…。コト…今の音は?…そだお気に入りの湯飲みをテーブルに置いた音。今晩は何を食べてるんだろ。てれびの音はなにかバラエティ番組かなにか。時よりてれびからの笑い声に合わせてクスクスと笑う声。出来るだけ声を抑えた笑い声。番組がヒートアップするにつれ、てれびからの音が少し大きく聞こえる。そのたびにリモコンでヴォリュームを下げる音。ピッピッピッ。少し静かになる。きっとこっち向いて様子を伺ってる。寝ているメルを起こさないように。ダイジョブ、メルは寝てるんだから、物音立てないんだから。そうしてるとまた意識はてれびや食器のほうへ戻る。しばらくそれの繰り返し。そして食事を終えたいっちゃんはキッチンへ。しばらく聞こえる水の音、カチャカチャと食器の奏でる音と優しい水の音…。

 メルはその音を聞きながら姿こそ見えないがそこに十六夜の存在を感じ、それだけで少し幸せな気持ちになった。ぽかぽかとするのは熱のせいだけではない。クリスマスらしく楽しむ事は出来なかったけど、だけどそばにその存在を感じるこれ以上の喜びがあるだろうか。ゆっくりと目を閉じそのいとおしい「十六夜の音」をメルは楽しむことにした。まるで華やかな街に立ち流れるクリスマスソングにそっと耳を傾けるように。
 
 …いつのまにか少し眠りに入っていたのだろうか。気が付くとまったく物音が聞こえない。あまりに静か過ぎるのもまた眠れない。一抹の不安を感じ目を開けるとそこには十六夜の姿があった。

「ありゃ…起こしちゃった?…おはよ〜調子はどぉ?」

 チャプン!起こしたついでにとメルの頭の下にひいていた氷まくらを取り替えながら十六夜は微笑む。

「クリスマスなのに…災難だねぇ。」

 サクッ!せっかくだからケーキ一口だけ、とスプーンで差し出す十六夜はやっぱり微笑む。
 
「ああ、私?私は災難だなんて思ってないよ。寝込んでも無いしね?どして災難なの?…ここにこ〜して一緒に居るのに?」

 パン!ケーキのオマケに一つだけ付いてきたクラッカー、案外大きな音するね、とメルをまっすぐに見つめながら十六夜は最上級の笑顔で微笑む。

 ぐわんぐわんとメルの頭の中を十六夜の奏でるクリスマスソングが廻りつづける。熱がまた数度上がったんじゃないかと思うくらいメルの頬は熱くなる。そして鼓動はどんどん高鳴っていく。

「ズルイなぁ…いっちゃんは。めるはいろんな音でいっちゃんを感じることが出来るのに。いっちゃんは感じさせてくれるのに。」

 意味がわからず十六夜の頭の上に「?」マークが浮かぶ。メルは突然ぐいと十六夜の頭を抱え込むと自分の胸に押し付ける。

…どきどきどきどきどきどきどきどきどき…

 十六夜の耳に入る音はメルの高鳴る鼓動。火照った体で響くその力強い心音は十六夜が思うメルの力強さそのものではあったが。

「…いっちゃんの前だとめるはこの音しか出せないんだもん。」

 ゆっくりと更け行くクリスマスイブ。気温はいつもより低めでどんよりとした空模様、もしかしたら夜更けすぎには雪が舞い散り、素敵なホワイトクリスマスになるのかもしれない。
 しかしながら熱に犯されたメルは0時を待たずに…そうホワイトクリスマスを待つことなくきっと深い眠りにつくだろう。だけどその時にこそサンタクロースは現れるのだ。そう眠りについた良い子にだけ彼は大事な大事なプレゼントを配るのだから。
 
 『さぁ良い子のお嬢さん欲しいものはなぁに?』

 …いいえ、メルはなにもいりません。ただ…ずっとこのままおそばに置かせて。ずっとこのまま十六夜のそばに。

 雪がしんしんと降り続く。ゆっくりとゆっくりと降り続く。降り続く雪のひとつひとつが幸せでありますように。ラグオルに舞い降りる全てのハンターズに降り続く幸せでありますように。

I wish ALL HUNTERS or GUARDIANS?! a merry Christmas !