もはん小話:狩猟の4 勝利の余韻~ココット村~

 メルはベースキャンプに戻る途中、鎧のまま川に入るとこびり付いた血や体液を洗い流す。もちろん偽装の為に塗りつけたモンスターの糞も。少し強く擦り過ぎたのか塞がっていた傷口が開いてしまいまた少し血が流れた。ケルピのなめし革から作ったナップサックから飲み水用の水筒を取り出し傷口を洗う。そして川辺の草むらから薬草を見つけ出すと必要な分だけ採集した。すり鉢があればいいのだが生憎ここにはない。メルは一度口に含み唾液とよく噛み合わせてからその汁を腕や太ももの擦り傷に塗る。少し大きな爪傷には葉っぱの部分を湿布のように貼り付け包帯を巻いた。
 大人しい草食獣アプトノス達が食事をしているのを眺めながらメルは懐から1枚の蒼鱗を取り出した。初めてメルがハンターとして自らの手により剥ぎ取ったランポスの鱗であった。一匹のランポスからは上手く剥ぎ取ればもっと多くの鱗や牙、それに皮など入手することが可能だ。しかしメルが下手だった訳ではない。多くのハンターは戦った相手に敬意を賞し感謝を持ってその素材をごく一部だけ剥ぎ取るのである。
 強きものが弱きものを淘汰していけばいつかはその強きものも淘汰される。一つの個体だけでは生きていけないのだ。そうならない為にも無駄に狩らず必要な分だけ狩る。同様に狩った獲物を全て持ち帰るのではなく必要最小限以外は自然に帰すのである。死肉は他の生き物の栄養に、骨は大地を育てる肥料に、そのようにしてまた連鎖の輪の中に戻す。自然と共に生きるハンターがゆえの約束事のようなものであった。
「ヒトがその連鎖の一部になる事もありうるんだよね…。」
 メルは先ほどの戦いを思い出しながらそう呟く。改めてハンターの怖さが身に染みてくると麻痺していた恐怖が蘇るのであった。

 その時アプトノス達が何かに怯えるようにいっせいに駆け出した。その原因はどうやらガチャガチャと鎧を鳴らし一人の男が必死の形相で駆けて来たせいのようだ。そのいでたちからハンターである事は見て取れたが武装はしていないようだった。
「あ…。」
 メルは気付く。いつもメルの事を馬鹿するあの男だ。しかし今日は仲間達の姿は見えないしそれに酷く慌てている。一体何があったのだろうか。
 男はメルに気付くとズカズカと近付いてくる。そして置いてあったメルのボーンククリを勝手に装備するとキョロキョロと辺りを見渡した。モンスターハンターの命とも言える装備品を勝手に触るどころか自分の物とする。さすがにこの暴挙にはメルも怒りが込み上げてきた。それにランポスを討伐した今はメルもこの男にバカにされるいわれはないのである。
「何するの、返して!」
「五月蝿い!こんなチンケな武器俺だって願い下げだ!!」
 願い下げ…頼んでも居ないのに何故勝手に?と思ったが余りの剣幕に一瞬たじろぐ。一体この男は何をしているのだろう。メルにはまったく理解不能であった。
「とりあえず俺は行く。お前もここを早く離れたほうがいいかもな。」
 男はそのまま走り去ろうとする。やはり理解不能であったがメルのボーンククリは男の腰に装備されたままだ。メルはナップサックを背負うととにかくその男の後を追った。

「ついてない…俺はついてない!クソッ!ボーンククリだと?冗談じゃない!!」
 男は大声を上げ何かに怯えるように森の中に立ち竦んでいた。男よりも軽装なメルはすぐに追い付いたが何か違和感を感じ少し離れた場所で立ち止まる。夕刻も近く日は翳り始めている。昼間でも鬱蒼と茂った大木が影を落とすその場所はほとんど暗闇に近かった。何か叫びながらもじわじわと後退を始めた男のすぐ向こう側になにか居る!
「…ドスランポス!!」
 いつか読んだ本に載っていたランポス達の王。ランポスよりも二周りほど巨大でそしてなによりも目に付いたその真っ赤な鶏冠が鮮血…死をイメージをさせた。


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