もはん小話:狩猟の22 ミナガルデへ~ココット村完結~

 結局ぞろぞろと現れる怪我人を乗せ待機していた荷車と共にイザヨイはココット村に一度戻ることになった。そして村長の計らいでイャンクック討伐の功労者に対してささやかな宴が開かれた。
 並んで座るイザヨイとメル。討伐は二人で行なわれた…となっていた。
「いっちゃんは…余計な事だった…もん。ちゃんと当たったでしょ、メルの攻撃だって。」
「まぁねぇ…。そっか~。」
 イザヨイは少し寂しげではあるが微笑む。同席するナルは思い出した。この少女は悲しい時ほどこうして微笑むのである。
「おぉ!めるめるも活躍したんスか?」
 ほんとはいちこさんの活躍でしょ~と言わんばかりにニヤけるサンク、その両手にはこんがり肉。
「した…少しだけ。」
 討伐の瞬間の自分とイザヨイを思い出し、さすがに恥ずかしさを感じて語尾を濁すメルではあったがやっぱり素直になれなかった。

「ふぅ、お腹いっぱいだね。」
 盛り上がる宴を少し離れて眺めるメルに近寄り話し掛けるイザヨイ。メルは黙ったまま。何か話題はないかと考えるイザヨイはメルの新しい防具を思い出した。
「あのランポスメイル、ちょっといい色だねぇ。クックの攻撃をまともに受けきったとこを見ると防御もそこそこあるみたいだし。」
「…どうせ一流のいっちゃんから見たらつまんない防具だよ。」
 なぜか前以上にイザヨイに食って掛かるメル。確かにプライドは傷付けたかもしれないけど…あまりのイジケっぷりになんだかちょっとだけ怒りを覚えるイザヨイ…普段なら、他の人にならそんなことはないのに。
「辺境のこの村で終わるだけのハンターならメルちゃん、貴方のそれでも大丈夫。これからもその装備が守ってくれるから。」
 思ってもみない言葉が咄嗟に口に出る。はっとするイザヨイは言った直後に激しく後悔した。
「…メルをバカにしに?実質クックを倒したのはいっちゃん一人で…だもんね。」
「ん~そんな気はないよ。そんな風に見える?見えた?…ごめん。」
 素直になりたいのに憧れの気持ちが大きくなればなるほどになぜか意地を張ってしまうメル。そんなメルに単に嫌われてると思い込むイザヨイ。黙り込むそんな二人を見ていたナルはやれやれと首を振った。

「いくらなんでもそろそろ起きてもいいんじゃないかい?」
 昨晩宴の途中で酔いつぶれたメルに声を掛けるナル。部屋に運び込まれた後延々と眠りつづけるメルの部屋の窓からは既に赤い夕日が射し込んでいた。
「イザヨイは帰っちゃったよ。」
 ぼんやりと視点の定まってなかったメル、一度は跳ね起きた。しかし。
「…そお。」
 一言呟くとまた布団に潜り込んだ。
「そぉってそんなものかい?この娘はほんと不義理だねぇ。」
「…そんな事言うならナル姉、起こしてくれたらよかったのに。」
「イザヨイが「起こさないで」って言ったさね。」
「…やっぱ怒っちゃったかな…。」
 ナルはふぅとため息を付く。
「心配してだよ!バカだねぇ、ほんと。ハンターどころかヒトとしてもバカだよ。あの娘がそんな人間かい。ニコニコといつも笑ってアンタを大事にしてくれたじゃないか?この村じゃ嫌われ者だったアンタをクック討伐の英雄にまで…英雄はまあ言い過ぎだけどずっと最後まで笑顔で助けてくれたのに。」
 メルは黙ってナルの言葉を聞いていた。声を抑えて涙を流しながら。
「一つ言っとくよ、あの娘の笑顔の裏にある悲しみが解るかい?まぁアンタじゃ解るまいね。自らの分を認めず差し伸べる手さえ跳ね退ける。そんなつまんないプライドを持ったまま死ぬがいいさね。自分の事ばかりで仲間を大事にしない奴は早死にする…これはずっと変わらないハンターの真理さね。」
 ナルはメルの返答を静かに待った。愚かだが最愛の妹の答えはたぶん…。
「ナル姉…。」
 相変わらず布団から顔は出さない。大事な事を言う時はいつもこうだ。
「メルね、ミナガルデに行ってみようと思う。」
 予想通りの答え。ナルは愛しい妹を抱きしめたかったがグっと我慢した。
「なにしに?アンタみたいなへたれが行っても、のたれ死にに行くようなものさね。」
「メルだけならたぶん…でもいっちゃんに謝って…仲間にしてもらう。たぶんいっぱい迷惑掛けて沢山助けてもらうと思う。その時に今度こそ「ありがとう」って言う。」
 ナルは歩き始めるメルに幸多かれと心深くで祈りながらもぶっきらぼうに答えた。
「…ふん。好きにするがいいさ。ただ一人前になるまで帰ってくるんじゃないよ?」

 辺境の小さな小さな村、ココット。もともと英雄と呼ばれたハンターが狩りで命を落とした恋人の眠るその地を守っていただけの場所。そこに人が集まりいつしか村になったという。西シュレイド王国の各地で活躍する多くの優秀なハンターを輩出するがゆえにそのようなお伽話が出来たのか、はたまた本当にそうして出来た村であるか、実際のところは分からない。
 そこに生まれた一人の少女。始まりの村でありそして終焉の村でもあるはずのその場所でハンターになりそして今自分の足で歩き始める。旅支度を終えた少女の目指すはハンターの街ミナガルデ。
 若くそして未熟なハンターである少女は、しかし後ろを振り向かずにただ前だけを見つめて旅立っていった。

(~ココット村~完結)

もはん小話:狩猟の21 イャンクック討伐~ココット村~

「最後の一個。最後の…あ!」
 メルは手を滑らせて回復薬の入った小ビンを落とし割ってしまう。イャンクックに負わされた怪我の具合と相談しながら。再対峙の可能性もあるしいったん村に戻るにしても回復薬が無いって言うのはなんとも心もとない。蜂蜜と調合して回復薬グレートにするか、そのまま飲まずに取っておくかそんな事を考えていた矢先に。
「とにかく…こんな時には採集して体力温存…って言うよね。」
 なにげに逃げてきた場所はあの通り抜けの森。とかくメルにとっては因縁深い場所である。因縁というか嫌な予感と言うものは何故か当たるもので空を切る翼音に咆哮。風圧に体の自由を奪われるメルの前にイャンクックが降り立った。大きく一鳴きするとその長い尻尾をブンと振り回すイャンクック。一瞬の出来事に防御も出来ないまま吹き飛ばされるメル。遠心力にしなる尻尾の一撃は予想以上に強く受身も出来ずに大木に打ちつけられて息が出来ない。それでも意識を保てていたのはメルがハンターとして優れていた訳でなく新調したばかりのランポスメイルのおかげだった。
”クケェケケケケケ~”
 見た目とは裏腹にイャンクックは臆病なモンスターである。完全に有利な状況であっても油断することなくメルを警戒していた。メルは不思議と恐怖は感じなかったがゆっくりと確実に近付く敗北…「死」にたいして悔しくて涙が零れた。
『引く時は引く。相手と自分の力量を誤るとほんと死んじゃうよ。』
 イザヨイの姿が浮かぶ。さほど年の離れていない少女は全てにおいて自分よりも上のように感じた。なぜか素直に話が聞けない。何度も助けてもらったのに。いろいろと教えてもらったのに。意固地になって無茶ばかりしてもそれでも笑顔で守ってくれていたのに。もう逢えないと思う。今日村を離れてるはず。一度でも「ありがとう」って言ってれば良かった。そしたらきっとこんな涙は流れてなかったと思う。たぶん。
『諦めることは自分に負ける事。諦めず、自分に負けなきゃ…いつか勝てるよ。』
 メルはイザヨイの言葉を思い出し最後にもうひとつだけ足掻く事にした。
「諦めない!…けどこんな時に素直に言う事聞いたってもう遅いよねぇ。」
 怒った馬のように脚で土を掻くイャンクック。苦笑いでグッと鉄刀神楽を突き出し、少しでも体を大きく見せようとするメル。最後の交錯は近い。

「そのまま動かないで!!!」
 メルは背後から聞こえる声に命じられるまま微動だにしなかった。まるでその呼吸まで止まったかのように。矢継ぎ早に飛来する弾丸はメルの数センチ横をすり抜け次々とイャンクックに命中する。それぞれの着弾の瞬間、雷光のような黄色の光に包まれる。その光は伊達ではない。その光には麻痺の効果がありイャンクックは動きを封じられた。まさに電光石火と呼ぶに相応しいイザヨイの狙撃であった。
「メルちゃん!得意なやつ!そして回避!」
 無意識だったかもしれない。メルは一歩踏み出しながらまっすぐに大剣を振り落とす。間髪いれずに横凪、そしてその遠心力を利用して斜め上方に切り上げるとそのままクックの股下を抜けるように転がった。
 メルが傷付けた部分、その剣傷に次々と飛来する貫通弾。傷付き破損した甲殻に対してその貫通力は凄まじい。イザヨイの放った弾丸はその全てがイャンクックの体に留まることなく貫通し正対する岩盤に突き刺さった。
 激しく鮮血を撒き散らしながら痛みに仰け反るイャンクックがその腹を見せた瞬間、叩き込まれる通常弾に散弾その他もろもろ。目まぐるしく変わる弾種にイャンクックの甲殻や鱗は次々に弾け飛ぶ。そしてボロ雑巾のようになったイァンクックは逃走する間もなくそのままあっさりと息絶えた。ガチャリと音を立てて二つ折りになるインジェクションガンを背負うイザヨイはメルに声を掛けた。
「…だいじょうぶ?」
 一瞬の出来事。初めて見るガンナースタイルのイザヨイはメルの予想を遥かに越える速さと強さであり、その姿をまのあたりにしたメルは言葉を失い大剣をだらりと地面に付けたまま立ち尽くした。

もはん小話:狩猟の20 別れゆく人々~ココット村~

 借りていた部屋を綺麗に掃除し、いくつかの装備品をナップサックに入れて背負うイザヨイに餞別代りの自家製弾丸を渡しながらナルは尋ねる。
「ミナガルデにはいつ戻るつもりだい?」
「昨日着いた定期便が今日あたり帰りそうなんです。それに便乗しようかと思ってます。」
「あら、ずいぶん急さね。」
「これ以上ここに居るとほんとに帰れなくなりそうですからね。」
イザヨイは愛らしくウィンクをすると舌を出した。ふと表情が曇る。
「ただ…結局、私、メルちゃんとは仲良くはなれませんでしたよ。」
 イザヨイはメルと何度かクエストをこなすもののどうにもココロの底から、腹を割って話す関係にはなれなかった事を言っているのだろう。どこかメルの警戒心を感じるのであった。それは単に同世代のイザヨイに対する嫉妬や羨望の気持ちの裏返しだったのではあるがイザヨイも今だ発展途上中。そこには気付けなかった。
「アンタと仲良く出来ないバカは落とし穴にでも埋めちゃうといいさね。」
 ナルはイザヨイにトラップツールでも持たせようかと本気で思った。

 普段は静かなココット村であるがクック討伐騒ぎで今日ばかりは騒々しい。ミナガルデに向かう定期便の荷台にちょこんと座り、手を振るイザヨイ。見送りはナルとサンクの二人のみ。
「…いちこさん、自分と一緒にクック討伐行かないっスか?」
「うん。もう出発だし。それに今から行ってもきっと誰かが討伐してるよ。メルちゃんなんか朝早くから張り切って出掛けてたよ。」
「そっすか…。うぐぐ呑み過ぎて寝過ごしたのが悔やまれるっス。」
 サンクは寝癖の付いた水色の髪を撫で付けると頭を掻いた。
「まぁ、また何時でも寄るさね。新しい素材でも見つけたらそんな試作じゃなくもっと凄いの作ってやるさね…。」
 ナルは腰に手を当ててふふんと鼻を鳴らした。
「は~い。また来ます。ありがとうございました。」
 イザヨイが頭を下げると共にアプトノスが一声鳴きそして動き出す定期便の荷車。ゆっくりと動く荷車が見えなくなるまで二人は村の入り口でイザヨイを見送った。

 イザヨイの乗る荷車は山道をゆっくりと進んでいた。すれ違うハンター二人。怪我をしているようで肩を貸し合ってよろよろと村へと歩を進めてたがミナガルデに向かう荷車に気付くと手を振った。
 荷車は男女二人組のハンターの横で止まる。怪我の少なめな男が荷車を操る御者でもある定期便の商人に声を掛ける。
「お~い。回復薬や音爆弾なんか売ってないか?」
「今は品切れだよ、昨日全部あんたらの村に卸したからね。」
「そうか…やっぱ村まで戻って出直しだな。」
「あ…もし良かったらこれを?」 
 イザヨイはごそごそとバックパックを探る。4個程回復薬を持っていたのでそれを渡そうとしたが二人のハンターはそれを辞退した。
「ありがとう、ただ今使う訳じゃないのでその数じゃ足りないな。…村に戻るなら同じだから。アンタの回復薬はこれからの旅に取っとくといい。」
「イャンクック討伐用ですか?」
 イザヨイはちょっと気になって尋ねてみた。それにしては少し怪我が大きいように見えたからである。
「ああ、クックだからって舐めて準備もそこそこに来たのが間違いだった。ありゃ銀冠サイズだぜ。もう何人も怪我人が出てる。」
 男は悔しげに呟くとイザヨイと御者に会釈すると村に向かって行った。
 イャンクック…鳥のような大きな嘴を持つその形状より大怪鳥と呼ばれることが多いがれっきとした飛竜である。たしかに大きさは一般的な飛竜に比べ小ぶりではあるがランポスなどとは比べ物にならないくらいに強い。駆け出しのハンターが一人前と認めてもらえる、しかし最初の壁はこのモンスター討伐かもしれない。稀に体躯の大きな個体がいるのはヒトと同じ。ヒトと違うのは決まってその大きな個体は通常のものよりもより強いのであった。そんな事を考えているとイザヨイはメルの事が少しだけ心配になった。しかしこの荷車に乗せてもらう時に護衛も兼ねてくれと言う条件で少しとは言え契約金も貰っている。ここで途中下車は契約違反になる。ハンターとして契約違反はしたくないが…。
「あの~御者さん…。」
 しばらく考えてやはりここで降りると伝えようとする。それを制して御者が口を開く。
「…お客さん、ココット村のハンターはお得意様だ。皆が怪我して居なくなっちゃ~商売上がったり。騒動が治まるまでここで停車します。次に動く時は声を掛けますのでしばらく自由にしていてください。休憩でも…クック討伐でも?」
 見識の深い商人から見ればその装備や振る舞いでイザヨイが一流のハンターだと言う事はすぐに判る。それに噂も商売に役に立つから聞き逃さない。ココット村でのイザヨイの評判もちゃんと耳に入っていた。
「…怪我人増えれば薬売れるのに。」
 イザヨイはクスクスと笑うと御者の粋な計らいに感謝しつつ駆け出した。

もはん小話:狩猟の19 流れ出す時間~ココット村~

 あのドスランポス討伐より一月が過ぎようとしていた。ツゥは当初の目的であったモノブロスを追い村を出て行ったきり戻らず。ブランカはあの事件の後すぐ、王国の軍師より召集を受けて中央に向かった。今だ村に滞在するイザヨイはナルの店に居た。
「すまなかったね、イザヨイ。思ってたより時間掛けてしまって。大丈夫かい?」
 ナルは調整の完了したイザヨイのインジェクションガンをカウンターの上に置くと申し訳なさげにそう言いイザヨイに頭を下げる。イザヨイはブンブンと手を振り笑う。久しぶりの愛銃を手に取るとゆっくりと展開してみた。今まで以上にスムーズに展開する様や曇り一つ無く磨き上げられた可変スコープレンズ、少し小さめのイザヨイの手にもすんなりと馴染むグリップ。その端々から解るナルの丁寧な調整に満足した。
「大丈夫ですよ、滞在してた間もいろいろ有って何かと楽しかったですし。ココット村の皆にも良くしてもらって…あまりに住み心地がいいんでちょっと街に帰るの止めようかなぁ?なんて思ってたぐらいで。」
「腕の良いハンターならどこでも良くしてもらえるさね。竜と共に生きる民には必要不可欠な存在だからね。…まぁアンタの場合そうじゃなくても良くして貰えるだろうけどねぇ。」
 ナルはイザヨイの人柄を良く知っている。瞬間、時代は遡り訓練所時代に共に過ごした1年間を思い出すナル。何があったかは知らないがたった一人で訓練所の門を叩いた世間知らずの幼い少女にはいろいろと辛い事も多かったはずだ。しかし自分も他人も「頑張る人が好き」だというイザヨイはどんなに辛くても弱音を吐かず、腐らず、そして誰に対しても優しく、ハンターとして、人として強く生き抜いてきた。その姿がどこか人に勇気を与える存在であるイザヨイはきっとこの先も人々に愛されそして人を愛して強く生きていくであろう。ナルはまぶしいものを見つめるように目を細めた。
「そういえばメルの奴は…。」
「今日はなんだか朝から騒々しく出て行きましたよ。なんでもイャンクックが出たとかで。…メルちゃんだけじゃなく村中大騒ぎしてるみたいです。」
「クック?…メルにはまだ無理っぽいさねぇ。」
 ナルは心配しているのかいないのかよく解らない口調と表情でそう言う。ナルはメルに対してほとんど何も言わない。ハンターが何たるか?それを自分に教えてくれたナルだけにメルに対してのその態度はイザヨイには少しだけ理解出来なかった。
「そうでもないと思いますよ。良い勝負するんじゃないかなぁ。着実に強くなってる…ケルビや少数のランポスあたりにはほとんど無傷で勝てるようになってますし。」
「あのドスランポス事件以来、何度も一緒してくれたみたいじゃないか。そこらも迷惑かけたさね。」
「むふふ、迷惑だなんてそんな…実はですね、なんかガラにもなくちょっとだけ”教官”気分味わっちゃったりして楽しんでたのは自分だったりですよ。」
 なんか教えたくなるんですよね、メルちゃんは何にでもムキになるから…。と笑うイザヨイ。
「そうかい。それならきっといいハンターになれるさね。メルも。」
 ナルは本当にそう思いイザヨイに感謝した。唯一の肉親であるナルの言う事には基本的に、そして盲目的に従うメルである。だからこそメルには何も言わなかった。自分が間違いを正す事は簡単だが、間違い自体に自分で気付かずに従っているだけでは成長はないと知っていたから。イザヨイ達との出会いにより近頃のメルは少しだけそれが解っているように思えた。
 自分がそうであったように例え間違った方向へ進んでもそれを乗り越え共に成長しうる仲間にメルも巡り逢えるはず。その時まで何も言わずただ傍で見ていようと決めていたナル。ココロの底ではずっとメルのその幸運を願って、そしてイザヨイ達のおかげでその願いは叶いつつあった。
「はい。たぶんいいハンターになりますね。ナルさんの妹ですし?」
「はん!ありがたいね…ったく。メルはクックなんかよりも大事な事を解ってないさねぇ。」
 旅立ちの近いイザヨイの前に姿を見せないメルに少し苛立ちを感じるナル。この時を逃すと、きっとハンターとしては終わりだと言うのに。
「ナルさん?一つ聞いていいですか?どうしてメルちゃん本人に何も言ってあげないんですか?」
 その答え、聡明なこの少女ならいつか自分で気付くだろう。ナルはそう思いこう答えた。
「…そう言う流儀さね。」

もはん小話:狩猟の18 朝日照らして~ココット村~

 若干白み始めた森を二人のハンターが駆ける。獣と血の臭いと奇怪な咆哮に向かって。
「青大将ガ…仲間ヲ呼ンデルナ?」
 ツゥは獣の声を聞き分ける、完全にではないが。以前共に請け負った依頼中その技能で何度も危険を回避した事のあるブランカは今回もツゥを信用する事にした。
「と言う事は…誰かがドスランポスに手傷を負わせたのかしら?」
「マァイザヨ嬢ッテトコダローナ。シカシ、状況的ニハチトヤベェカモナ、急グベシ。」
 手負のドスランポスは仲間を呼ぶ。ランポスはもちろんの事、その集まるランポス達を狙ってさらに凶悪な飛竜も呼び寄せる事がある。イザヨイのような力あるハンターと言えども一人では乱戦の中、数に押されて命を落とす可能性もない訳ではない。強走薬を懐から二本取り出すと一本をブランカに渡すツゥ。二人は一気に飲み干すとその効果により全力疾走で長距離を駆けた。

 ズリズリと足を引き摺りながら後退するドスランポス。苦しげに吼えるたびに森のあちらこちらからランポス達が姿を現す。その数は20を超え今もその数を増やしているようだ。連なるランポスがドスランポスを庇うように壁を作る。
 その青い壁に囲まれるイザヨイとメル。さすがのイザヨイも少しだけ焦りを感じていた。一人であれば難なくこの場を離脱し逃げる事は出来ると思うがメルの反応がない。この状況になっても今だしゃがみ込んだままなのである。
「メル…ちゃん!とにかく立ち上がって。…強い”獣”になるんでしょ!生き残るんでしょ!立って!…立ちなさい!そして逃げて!」
 その声にようやく立ち上がるメル。転がる鉄刀を拾うとブンと風を斬る。そしてランポスの青い壁に正対し構えなおす。この場に及んでも交戦の構えを見せるメルに対してイザヨイが慌てて叫ぶ。
「駄目!逃げて!」
「やだ!逃げない!」
 イザヨイはメルの背に張り付くと互いの死角をカバーするかのように背中合わせにボーンククリを構える。次第にその直径を狭めてくる青い円周を警戒しながらもメルを説得する。イザヨイは思う。メルの小刻みに震える背中は恐怖の証、なのにどうして。
「バカ!命を粗末にするのが”獣”じゃないでしょ!ドスランポスでも判ってる事なのに。」
「バカでも何でもいいよ!ただもう…もう逃げるのはやだ!」
 メルは震えながらもしっかりとランポスを見据えている。闇雲に攻撃する訳でも取り乱すわけでもなくただ見据えているのだ。イザヨイにはその姿が油断も気負いも無いメル本来の自然な姿に見えた。
「獣になるとかハンターになるとか…ほんとはどうでもいい事だって解ってた。何も解ってないのに解ったふりで逃げてるって事だって。あの夜に命を奪われる怖さを知って、そして逆に命を奪う怖さも解って。なにもかもから、生きていくことさえからも逃げてた。」
 イザヨイは誤解に気付く。メルはその命を奪われる事は元より他の命を奪う事にも恐怖していていたことに。強がってココロを塞いで命を奪っている自分自身から目を背けていたことに。そしてイザヨイは感じる。メルに元より備わっていた光が今まさに戻ろうとしていることを。
「いっちゃんの言うココロの強さ、メルも覚悟するよ。生きていく為に、前に進む為にいろんな命を奪って、そして背負う。命の重さは皆同じ。どの命が重くてどの命が軽いなんて優劣なんてないから全部背負っていく。とても傲慢で残酷で醜い自分だけど認めないより…逃げるよりずっとマシ。だから今は逃げない。戦う!」
 覚悟だけで駆け出しに毛の生えたようなハンターがどうにか出来る状況ではない。無謀な行為だと思った。しかしイザヨイはどのような結果であれメルの戦いを止める事をやめた。この戦いこそがメルのハンターとしての本当の第一歩のように思えたから。
「…了解。んじゃ一個だけ聞いて。大事な事は攻撃する前じゃなくて後。一撃で倒せる獣なんてほとんど居ないんだから。この数だし…大振りせずに攻撃より避ける事に意識を集中して。お願い。」
 メルは返事をしなかった。しかしながらたぶん理解はしているはずとイザヨイも自らの戦いに集中する事にした。

 戦いは今まさに始まろうとしていた。森を包み込んだ朝日は美しい緑と毒々しくも鮮やかなランポスの青い鱗を照らしていた。
 その姿を確認したブランカは自らの移動速度を最大からいきなりゼロに。ブレーキ代わりに霜の降りた地面をかかとで抉ると使い慣れた真っ白なボウガンを素早く展開する。一般的に弾丸を射出する為の弓部はその前面に取り付けられている事が多い。しかし朝日に白い銃身を輝かせるクイックキャストは珍しい形状をしており最後尾に設置されている。その後部に取り付けられた弦に連動するリローディングレバーをガチャリと引上げるブランカ。腰のポーチから一握り、自慢の自家製散弾を取り出すと素早く弾倉へ。フゥと息を吐き一呼吸で放つ。ランポスの環、その中心に立つイザヨイとメルに向かって。
 しかし飛来する数個の散弾は二人を取り巻くランポスだけを撃ちぬいた。それぞれが独立した意識を持っているかのようにイザヨイとメルだけを避けて。
「ドーヤッテルノカイマダ、ワカランナ。散弾デ狙撃ナンテアリエナイゾ?」
 ツゥは知っているのだ。ブランカが数発の散弾全ての、それぞれの描く放物線を把握している事を。
「あら、昔ガンナーだったでしょ?貴方も。…困った人ね。」
 ブランカはウィンクをすると次弾の装填動作へ。
「…昔がんなー?ソンナコトガ出来ルがんなーナンテ、アンマシ居ナイゾ。俺モ含メテ…ナ。」
 ツゥはやれやれと首を振った。

 イザヨイとメル。二人が覚悟を決めたその瞬間、数体のランポス達が吹き飛んだ。ドスランポスに統率されていた青い壁はあっさりと崩れる。何が起こったかは二人とも理解は出来ていなかったがそれが最初で最後と思われるチャンスだと思った。浮き足立つランポスを丁寧に狩っていくイザヨイ。一刀ごとに一度背中に戻しては抜刀と当時に切り落としを繰り返すメル。少しずつ傷は負いながらも致命傷は避けるようになんとか戦っているようであった。
 ブランカのボウガンが頭蓋を撃ちぬき、イザヨイの片手剣が喉を裂き、メルの大剣が肩口から両断する。圧倒的不利に思えたこの戦いもブランカの参戦によりあっさりと有利へと変わった。次第に数を減じていくランポスは息絶え、逃走し、散っていった。イザヨイとメルの二人がブランカの遠方支援に気付いたのはランポス達、それにいつのまにか消えていたドスランポスが居なくなってからであった。

 隻眼のドスランポスはイザヨイに切り裂かれた体から血を流しながらも通り抜けの森からなんとか逃げ延びていた。手下のランポス達を囮に使う事はうまくいったようだった。左眼を失った時と同様またどこかに身を潜めてとにかく傷を癒そう。今日のように小さい生き物だからと油断せず、次に嫌な匂いを感じたら遊ばずに狩ってやろうと決める。そこでふと喉が渇いている事に気付く。そして乾いた喉を潤す為、朝日を乱反射する小川に口を付けた瞬間にその思考は止まる。ドスランポスのその小さな脳髄は巨大なハンマー、バルセイト・コアに頭蓋ごと叩き潰されてしまったのだった。
「ワルイ…デモナイカ?…アノ場カラ逃ゲ出シタ瞬間、オマエサンハ狩ラレル側ニマワッタカラナ。」
 誰に聞かせる訳でもなく独り呟くツゥ。通り抜けの森の乱戦からこっそりと逃げ出したドスランポスを追ってきたツゥはたった一撃、迷いのないハンマーの一振りでドスランポスの命をあっさりと奪う。大きな世界の一部、極小さなココット村。その辺境の地で起こった小さな事件はここに終結を見た。
 ツゥは登り行く朝日をまぶしそうに見上げると軽々とハンマーを背負った。ツゥにとってハンマーは命と同意。その命を背負う行為は奪った命、その業を背負う事だと言っているかのようであった。ツゥはハンマーより滴るドスランポスの血がその防具、肌を露出させた赤い色のボーンシリーズに流れることにも構わずその場を離れた。

もはん小話:狩猟の17 ハンターのココロ~ココット村~

 イザヨイは暗闇を凝視し何かを探る。メルに連れ込まれた横穴の奥で注意深く。しかし気配はもとより、訓練により鍛え上げられた夜目と優れた嗅覚とを駆使してもそこになにも感じることは出来なかった。
「メルちゃん…何もないような気がするんだけど…?」
 突然「殺される」と言うメルに従って横穴に入ったのはいいがイザヨイには何が何だか理解する事が出来ずにいた。
「コワイの居るよ…。出口の前でメルを見張ってる…。ヤダ、コワイ。」
 ガタガタと震えるメルに声を掛けるイザヨイであったがその言葉はメルに届いているとは思えなかった。その様子を見ているうちにイザヨイはサンクから聞いていた話を思い出す。たしかメルが以前ドスランポスに襲われた時もこんな状況下であったらしい。それ以降メルは変わってしまったと聞く。なにかがきっかけで記憶がフラッシュバックしているのかもしれない。夜の闇?それとも…?
「…何に怯えてるの?」
「怯えてなんかないもん!それよりもメルのボーンククリ返して!メルだってランポス倒したんだもん。もう馬鹿になんてされないもん。もう…もう一人前のハンターなんだもん。」
 不安定であったメルはイザヨイの持つボーンククリを見てドスランポスに襲われる以前、過去の自分に戻ってしまっていた。イザヨイにはそれが分かるはずもなくとにかく落ち着かせようとするが取り乱すメルをどうする事も出来なかった。一瞬ガクンとうな垂れたメルが突然立ち上がる。
「一人前のハンター?ハンターにはならないよ。弱いハンターは殺されるから。メルは弱いから。誰が助けてくれるの。誰も…。強い獣になるの。メルは強い獣に。殺される前に殺すの!!!憎い憎い憎い!!!」
 メルの言動は支離滅裂、混乱を極めた。今度は横穴から転がり出ると鉄刀【神楽】を闇雲に振り回す。そのさまはあまりにも滑稽で、しかし悲しみを感じさせずにはいられなかった。
 イザヨイは突然にメルを理解した。ハンターに憧れた少女のココロは一匹の無慈悲な獣により引き裂かれてしまった事を。無力な少女のココロは強力な獣によって間違った方向に魅入られてしまった事を。
 村では中傷され非難されるハンターの少女、孤独に恐怖と戦いココロが敗れながらもなんとかそこにしがみ付き続ける。そんなメルを想うと気付かないうちに涙が頬を伝っていた。イザヨイはグイと手のひらでそれを拭う。そしてどうすればこの少女に光を取り戻せるのだろう…イザヨイはそればかりを考えていた。その機会、過去の清算は突然に予想もしないところから現れた。イザヨイもましてやメルも、二人は忘れていたのだった。この森に現れたあのドスランポスの事を。

 隻眼のドスランポスは森の中でなにか音を立て続けている小さな生き物を二つ見つける。どう見ても自分より弱そうなのだが、その一つから漂ってくる匂いが何故か無性に苛立たしさを感じさせた。突然の痛みとともに見えなくなったこの左眼。その左眼を失った時の匂いだ。とにかくこの匂いを絶とう…ドスランポスはそう思うと匂いの発生源メルに向かって加速した。
 
 いきなり暗闇から現れたドスランポスにメルは呆然となる。呼吸すらしていないかのように微動だにしない。両手で振り回していた鉄刀【神楽】はドサリと地面に倒れるとその力を発揮することもなくただの棒切れのように静かに横たわった。それが合図であったかのようにドスランポスは耳障りな奇声を高らかに発するとメルに襲い掛かった。
 血のように真っ赤で醜悪な爪がメルを引き裂こうとした瞬間、火花が散る。メルとドスランポスの間に割り込んだイザヨイが盾でその爪を弾き返したのだった。即座にイザヨイは肩でメルを弾き飛ばす。とりあえず安全圏に弾き飛ばされたメルは後方に数歩進んで尻餅を付いた。その痛みで自分を取り戻したメルはボーンククリを構えるイザヨイの姿があの男の姿と被っている事に気付いた。そしてその結末も同じ、あの男と同じようにドスランポスに引き裂かれ絶命する姿までも想像してしまったのだった。
「メル=フェイン!答えて!ヒトは弱いの?」
 しかしイザヨイは引き裂かれはしなかった。それどころか反撃の合間にメルに質問まで投げかけて来る。ただボーンククリはドスランポスの硬く滑った表皮に弾かれてはいたが。
「…ヒトは…弱い。だって獣には勝てない…もん。」
 メルは素直に答える。暗闇で生きながらも光を求める羽蟲のように。
「んじゃ…獣は強いって言うの?」
 イザヨイは盾と剣とを器用に使い分けドスランポスの攻撃を弾き、かわし、受け流した。
「…獣は…強いよ。きっと…いっちゃんも殺されちゃう…。」
 メルは悲しみでポロポロと涙を零す。しかし視線はイザヨイから外さない、外せない。
「だから獣になる?強さを求める?」
 イザヨイはグッと沈み込みゴロゴロと横に転がりながらドスランポスの体当たりをかわす。
「…そうだよ…獣になって…牙を持たないメルは強い武器持って…。」
「強い武器って何?そこに転がる鉄刀?それともこのボーンククリ?恐れ知らずのココロ?」
 転がるそのままの勢いでドスランポスの左側、死角に回り込むイザヨイ。
「…ボーンククリは弱い、鉄刀だって…。」
「違う!そうじゃない!」
 メルの言葉を最後まで待たずにイザヨイは続ける。剣を弾かれてもけっして引かずに。
「強さはそんなものじゃない!」
 イザヨイはドスランポスの太ももの付け根。その柔らかい関節部分を狙いすませて突く。体重移動とその突き角度が絶妙で深々と突き刺さるボーンククリ。イザヨイがそのまま一気に首元まで切り上げると鮮血を噴き上げながらドスランポスは大地に平伏した。
「弱いヒトでも、弱い武器でも強く恐ろしい獣を凌駕出来る力を持ってる。」
 イザヨイはブンとボーンククリに付いた血を払うとメルを見た。
「強さとは…恐れる事を忘れず、だけどけっして生きる事を、前に進む事を諦めないココロ…私はこう思ってるんよ。それが強さ、ヒトの中にある”ハンターズ・スピリット”だって。」

もはん小話:狩猟の16 怯える獣〜ココット村〜

 睨み合ったまま動かないメルとイザヨイ。樹木の隙間を通り抜けた月明かりだけがスポットライトのように二人を照らしていた。夜行性の羽蟲がゆっくりと二人の間を横切る。二人は目だけで羽蟲を追うと羽蟲はその二つの視線を避けるように闇に消え去った。二人同時に視線を戻すと同時に目が合う。妙に可笑しくなりどちらからとも無く声を出して笑った。ひとしきり笑うと緊張の解けたメルがイザヨイに言う。
「イザヨイって言ったっけ?…ん~いっちゃんでいいや。ともかくメルはこの森で一番強い獣になりたいんだから邪魔だけはしないで。」
 メルは案外本気で言ってるのかもしれない。いろいろと反目する想いはあった。しかしイザヨイはその姿勢を正そうとする事は止めた。自分もまだ修行中の身であり迷いながら生きている。それにいろんな生き方があって然り。そういうハンターが居ても面白いかも知れないと思ったから。
「好きにすればいいけど…。目の前の獣さんなら容易く狩れちゃうね。この森で一番弱いらしいヒト、私みたいなハンターでも。てか…悪さする前にいっそ今のうちに狩っちゃおかなぁ?」
 イザヨイは冗談を言いながら腰の片手剣をポンポンと叩いた。ニヤニヤと笑っていたメルがその片手剣、ボーンククリを見て突然無表情になる。
「…そんなの持ってたら死んじゃう…やだやだ…やだ…。」
 メルの声は小さくイザヨイは良く聞き取れなかった。何?と聞き返そうとするイザヨイ。メルはビクビクと辺りを見回すとイザヨイの手を引きいきなり駆け出す。
「ちょ…ちょっと待って!何?突然?」
「いいから!早く!あそこに入らないと殺されちゃう!」
 メルの指差す先は通り抜けの森の奥、ドスランポスに追い込まれたあの横穴であった。

 月明かりに照らされるどこか静か過ぎる丘にブランカは一人立っていた。メルを探しに森に入ったはいいがそこでは森の盗賊、猫獣人メラルーに装備品を盗まれそうになりすぐに取り返したものの、代わりに貴重な時間を取らてしまった。そのせいでメルの足取りを見失っていた。見つけたものと言えばランポスの亡骸数体のみ。足跡やランポスの切断面から少なくとも二人以上のハンターがその亡骸を作ったと思われる。大剣での袈裟斬りと思われるランポスもあったが目的のメルは単独で行動しているはず。しばらく考えてどこかで何かの動きがあれば森の動物がざわめく、そう判断したブランカは森が一望出来る小高い丘に来たのである。
 青い月明かりでさらに蒼く光る【老山龍砲・皇】を展開しその望遠スコープを覗き込む。月明かりもあって視界は予想より遥かに良かった。しばらくスコープの倍率を変えながら周囲を見渡したが森は静かなまま、むしろ静かすぎるくらいだった。さすがに一人で探し物をするにはここは広すぎる。メルの足取りくらいはすぐに掴めると思っていたのだが。
「ちょっと私も軽率だったかしら?困ったヒト…は私ね。」
 ブランカは森に駆けて行ったメルにペイント弾の一発でも当ててればよかったかしら?と苦笑いした。
 その時丘の入り口で何かが動いた。ブランカはスッと目を細めると静かに息を潜める。丘の入り口は切り立った岩石で囲まれていてちょうど影になっていて良く見えない。少し距離もあったのでちょっとした油断もあったのかもしれない。スコープを覗き込んだ瞬間、その影は想像以上のスピードで視界から消えた。
「やばい!」
 ブランカは肉眼で確認しようと顔を上げたそこには…バルセイト・コアを構えたツゥが立っていた。
「…ン。じみータンカ?ドウシテコンナトコニイル?」
 結局イザヨイの後を追う事にしたツゥは単身ブランカと同様のルートを辿りここに来たという。
「ジミーって呼ばないで。それよりツゥさん?貴方こそ近頃【山猫亭】で顔見ないと思ったらこんなとこで何を?」
 二人はミナガルデにある酒場の常連同士でありお互いに意外な場所で意外な人物に会った事を驚いていた。

「…ということはそのイザヨイって子とメルが合流してる可能性はあるって事ね。」
「ソウダナ。テコトハ…アノとかげハフタリデヤッタ罠?」
 そう考えるのが妥当ね、ブランカはそう言うと立ち上がる。サシミウオを丸かじりするツゥも後に続こうとする。ふと森のほうを見るブランカは鳥達の羽ばたく姿を目にする。そして静かだった森に耳障りな叫び声が響いた。

もはん小話:狩猟の15 ハンターとケモノ~ココット村~

 先に行くメルを追いかけてちょうど身の丈ほどの段差に飛び上がり手を掛けるイザヨイ。グイと体を持ち上げるとその上に乗る。その先には他からは死角となるちょっとした空間があった。樹木の連なりや迫り出してくる岩盤の状況。それらの偶然が重なる自然が作った避難場所とも言える場所である。さすがに飛竜の放つ火球であれば密室状態なだけにその熱気に焼かれるかもしれない。しかしランポス程度であれば十分にその効果を発揮出来ると思われた。そこでメルは大きな蜂の巣を見つけるとその下をゴソゴソと探った。
「…回復薬はちょっと苦いからぁ。」
 メルはイザヨイに渡された回復薬に採ったばかりのハチミツを垂らすと一気に飲み干した。メルはその効果を知らない。その言葉の通り単に味付けをしただけだった。
 ハチミツの甘味はすぐにエネルギーに変わる。その速攻性、薬草との相乗効果もあって通常の回復薬よりも体力の回復が良い事は知られる話である。効果を知るイザヨイも同じようにハチミツを採集するとポーチから回復薬を取り出し混ぜ合わせる。気取ったハンターなら混ぜるとは言わず調合すると言うだろうがほんとに混ぜるだけである。それで回復薬グレートと呼ばれる薬が一つ出来る。ただしイザヨイはメルのように飲むことはせずまた腰のポーチに仕舞い込んだが…。
「ん、調合レシピは知ってるんだ。君みたいでもいちおハンターって訳だね?」
 イザヨイは一つ勘違いをしながらもメルを挑発するような言葉を投げかけた。喧嘩を売るつもりはなかったが勝目のない戦いに臨んでいたメルになぜかイラついていた。
「ハンター…どうだろ?メルってばハンターに見えた?」
 メルはクスクスと笑いながらイザヨイを見る。イザヨイは意外な返答に一瞬戸惑った。
「メルはねぇハンターじゃないの。村の皆もそう言ってなかった?」
 ハンターじゃない?イザヨイはてっきり村の噂なんて知らずメルは勝手気ままに生きるだけのハンターとばかり思っていた。だからこそ自分の持つハンターのイメージ、もっと端的に言えば自分自身と余りにも違いすぎるメルに興味があったのである。
「ハンターじゃないって…それならどうして獣を狩るの?命を掛ける意味なんて無い事をどうして?」
 メルは無邪気にクスクスと笑いつづける。
「だから~メルはハンターじゃないからそんなのわかんない。この森の中でいろいろ理由付けるのはハンターだけだよ。」
 イザヨイは混乱を極めた。正直メルは村の皆が言っていたようにどこか壊れてしまっていると思った。だけど何かそれだけではない…そんな気もするのである。とにかく話をしてみようと思うイザヨイはさらに続けた。
「貴方だって獲物を狩って糧を得てる…どこがハンターじゃないの?」
「んも~うるさいなぁ。獣だって狩りをして生きて行く為の糧を得てるじゃん。んじゃランポスもドスランポスもみ~んなそのハンターだって言うの?」
 単純に言葉の意味からすれば狩る側の獣もハンターと呼べる。しかしイザヨイの言っている”ハンター”とは少しニュアンスが違う。それが分かっているからこそ自分はハンターではないとメルは言い張る。
「違う。ヒトと獣は違うよ。メル…ちゃん。違うからこそハンターに…。」
 イザヨイは怯える子供を落ち着かせるように極力優しい声を出したつもりだったがメルはその言葉を途中で遮る。
「ヒトがハンターである限り、獣には絶対に勝てないの!ヒトは弱いくせに、この森の中でも一番に弱いくせに!ハンターなんてそんな括りの中で言い訳しながら獣と戦ったって…いつか殺されちゃうだけ!」
 いきなり感情的になったメルは一気に捲くし立てる。
「やだ!メルは死にたくない…メルも獣になるの。何も考えずただ生き抜く為だけに戦って勝ってそして一方的に奪って…その為に爪や牙の変わりになるような強い、一番ツヨイブキが欲しいの!!!」
 ポロリと涙を一つ流したメルはグッとコブシを握ってイザヨイを睨み付ける。イザヨイは思う。ならばこの狩猟場から去ればいいのに。去ってしまえば少なくとも獣に殺されることは無いはず。しかし去れないのはメルがやはりハンターだから。言葉や考え、主義や主張が違っても…恐れ慄きながらも獣と戦い生きていく事を選ぶのはヒトがハンターになる為の一番の条件だからと信じているから。
 考え方も含めハンターとしては出来損ないの半人前以下。このままだといつか命を落とす事は間違いない。しかしイザヨイはメルの強さを感じずにはいられなかった。メルの怯えながらも威嚇する目…その視線はまさに野生の獣であったから。

もはん小話:狩猟の14 メルとイザヨイ~ココット村~

 幻想的とも言える森の中。小さな明かりによって長く伸びた幾本の影。揺らめきながらも激しく伸び縮みを繰り返す。
「あれがメル?メル=フェイン?」
 イザヨイは抜刀しながら慎重に近付く。ぼんやりと浮かび上がるメルの口元はうっすらと笑みを浮かべていた。一人、ランポスの群れの中に立ち東方より伝わりし鉄刀を力任せに振り回しながら。攻撃と言うにはあまりにも雑。振り下ろす刀が弾かれようがお構いなし。でたらめに地面を転がりながらブンブンと振り回すのみ。
 しかし運良く、ランポスにとっては運悪くだがその未熟な剣がランポスを捕らえた。その瞬間、貴重な鉱石により研磨された鋭い刃が未熟なメルに力を与えるとランポスは真っ二つになった。ハンター達の間で俗に言う優れた武器の性能に頼った戦い方であるがあれでは全てを屠る前に自らの体力が尽きてしまうであろう。今現在ランポス達はその勢いに押され攻撃を躊躇してはいる。しかしメルが疲労したと見ればすぐに反撃に転じるはず。そしてその時は近い。
 メルはかなりの怪我をしているようだ。イザヨイの慎重な足取りはゆっくりと加速を始める。さらに加速、最高スピードに達したイザヨイは一度深く体を沈めた状態からすばやく伸び上がると、痺れを切らしてメルに飛び掛るランポスを弾き飛ばす。勢いを残したまま下から上へと切り上げると今度は躰ごと右回りに大きく回転。鮮やかな三連撃でランポスを沈黙させた。
「誰?」
 メルは一言だけイザヨイに発する。しかしイザヨイは答えない。とにかく廻りのランポスを討伐してこの場を離れる事が先決だ。たぶんランポス達は既にドスランポスを呼んでいる。ドスランポス単体であればイザヨイの敵ではないかもしれない。しかし狡猾なドスランポスは配下のランポスによる波状攻撃を仕掛けてくるだろう。いくら弱い相手だとしても数で押されるのはあまり有利な状況とは言えない。今は少しでもランポスの数を減らしメルを連れて逃げる。そう思い答えを返すのは後回しにした。
 ふたたびメルは微笑を携え不運なランポスを両断していく。イザヨイの参戦により劣勢と見て逃げ出そうとするランポスに対しても後を追うそぶりを見せる。メルは逃げ切ったランポスが視界から消え去ると、今度は傷付き動けなくなったランポスに剣を突き立てる。噴き上げる鮮血の中に佇むこの少女はいつも独りでこうやって生きてきたのだろうか?イザヨイにはなぜかそれが”皆殺し”という残虐な行為というよりも、何かに怯えつづける幼子のように見えた。
「メル=フェイン?だよね。私はイザヨイ。とにかくココを離れましょ。」

もはん小話:狩猟の13 十六夜の夜~ココット村~

 幸いな事に月が出ている。満月は昨夜だったので真円の月ではないがそれに近く月明かりと言えども見通しは良好だ。ただそれは村のように開けた場所であるからということも忘れてはならない。朝日が出てからでも遅くは無いと言う村長であったがそれならば明日の朝、討伐依頼を出せばよい話である。村長の意図するところは理解出来た。とりあえず様子だけでも見てこようとイザヨイが準備を整える傍らサンクが愚痴をこぼす。
「だいたい村長も冷たいっス。HR13以上ってとこもそうだけど生死不問だなんていうっスから。」
「13でもちょっと厳しいかも、それに生死まで問うと無理しちゃうでしょ。生存【1】が【0】になっちゃうよ。ハンターなら自分の不始末をヒトに廻さない事も重要だしね。」
 今だ改造の終わらないインジェクションガンの代替品としてナルに借りた片手剣を装備し準備完了。ナルは昔を思い出したのかニヤニヤと笑いながらなかなかに無茶な武器を準備してくれたのだが…しかしコレで十分だった。臨戦体勢にスイッチするイザヨイ。運搬や採集もハンターの仕事と認めてはいるが何も考えずただ狩る事に集中する討伐はもっともハンターらしい。ここのところ見ず知らずのメルの事も含めて余計な事に頭を使いすぎたと感じているイザヨイは討伐が済むまではその事だけに頭を使うと決めた。
「だけど頑張れば【2】になる事もあるっス。うう、いちこさんまで冷たいっス。」
「イザヨ嬢。ヤッパゴ一緒スルベカ?」
 ツゥも討伐依頼を受けては居たがイザヨイとは別行動、明日の朝出発して現地にて合流する手筈になっていた。  
「とりあえず今夜は様子を見てくるだけ。何かあっても一人のほうが逃げやすいし。」
 それに…とイザヨイは満月から一日遅れの月を指差すとにゃは~ん。それにウィンクをひとつ。
「大丈夫。今宵は十六夜。…私の夜だよ。」

 ベースキャンプでは数人のハンターが夜明けを待っていた。夜明けと共に飛び出していく算段であろう。先行しようとするイザヨイを見ても何も言わない。経験を積むほどに他のハンターには干渉しなくなるものだ。自分の力量を正しく測り行動する事、他人に行動を左右されるようではまだまだ半人前なのである。
 サンクやツゥには見てくるだけと言い、実際ここに来るまではそう思っていた。しかし狩人の血とも言うべきか。この暗闇でもしも運良くメルを発見、そしてその状況が最悪の事態であった場合にはその場で障害は排除する気になっていた。なにげに自らのクロオビシリースを見るイザヨイ。無様に返り討ちにはあえないなと思いながらも装備するに見合うだけの力量はあると自負もあった。
 討伐依頼が出た後、ココットの森に入っていったハンターはメルを除く二人、イザヨイとさらに先行するブランカだけであった。
 注意深く森を行くイザヨイ。もしかしたら思いとどまってるかもしれないと旧ベースキャンプ跡地に向かうがフクロウの鳴き声が響くのみ。さらに進み通り抜けの森では茂みには近付かず真中を歩いた。発見される事よりも死角よりいきなり飛び出されるほうがとっさの対処が難しくなによりもそれが怖かったのである。案外このまま夜が明けてしまうかもと思ったその時、松明の光だろうか?ぼんやりと光るその場所で剣撃の火花が走った。


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