もはん小話:狩猟の20 別れゆく人々~ココット村~

 借りていた部屋を綺麗に掃除し、いくつかの装備品をナップサックに入れて背負うイザヨイに餞別代りの自家製弾丸を渡しながらナルは尋ねる。
「ミナガルデにはいつ戻るつもりだい?」
「昨日着いた定期便が今日あたり帰りそうなんです。それに便乗しようかと思ってます。」
「あら、ずいぶん急さね。」
「これ以上ここに居るとほんとに帰れなくなりそうですからね。」
イザヨイは愛らしくウィンクをすると舌を出した。ふと表情が曇る。
「ただ…結局、私、メルちゃんとは仲良くはなれませんでしたよ。」
 イザヨイはメルと何度かクエストをこなすもののどうにもココロの底から、腹を割って話す関係にはなれなかった事を言っているのだろう。どこかメルの警戒心を感じるのであった。それは単に同世代のイザヨイに対する嫉妬や羨望の気持ちの裏返しだったのではあるがイザヨイも今だ発展途上中。そこには気付けなかった。
「アンタと仲良く出来ないバカは落とし穴にでも埋めちゃうといいさね。」
 ナルはイザヨイにトラップツールでも持たせようかと本気で思った。

 普段は静かなココット村であるがクック討伐騒ぎで今日ばかりは騒々しい。ミナガルデに向かう定期便の荷台にちょこんと座り、手を振るイザヨイ。見送りはナルとサンクの二人のみ。
「…いちこさん、自分と一緒にクック討伐行かないっスか?」
「うん。もう出発だし。それに今から行ってもきっと誰かが討伐してるよ。メルちゃんなんか朝早くから張り切って出掛けてたよ。」
「そっすか…。うぐぐ呑み過ぎて寝過ごしたのが悔やまれるっス。」
 サンクは寝癖の付いた水色の髪を撫で付けると頭を掻いた。
「まぁ、また何時でも寄るさね。新しい素材でも見つけたらそんな試作じゃなくもっと凄いの作ってやるさね…。」
 ナルは腰に手を当ててふふんと鼻を鳴らした。
「は~い。また来ます。ありがとうございました。」
 イザヨイが頭を下げると共にアプトノスが一声鳴きそして動き出す定期便の荷車。ゆっくりと動く荷車が見えなくなるまで二人は村の入り口でイザヨイを見送った。

 イザヨイの乗る荷車は山道をゆっくりと進んでいた。すれ違うハンター二人。怪我をしているようで肩を貸し合ってよろよろと村へと歩を進めてたがミナガルデに向かう荷車に気付くと手を振った。
 荷車は男女二人組のハンターの横で止まる。怪我の少なめな男が荷車を操る御者でもある定期便の商人に声を掛ける。
「お~い。回復薬や音爆弾なんか売ってないか?」
「今は品切れだよ、昨日全部あんたらの村に卸したからね。」
「そうか…やっぱ村まで戻って出直しだな。」
「あ…もし良かったらこれを?」 
 イザヨイはごそごそとバックパックを探る。4個程回復薬を持っていたのでそれを渡そうとしたが二人のハンターはそれを辞退した。
「ありがとう、ただ今使う訳じゃないのでその数じゃ足りないな。…村に戻るなら同じだから。アンタの回復薬はこれからの旅に取っとくといい。」
「イャンクック討伐用ですか?」
 イザヨイはちょっと気になって尋ねてみた。それにしては少し怪我が大きいように見えたからである。
「ああ、クックだからって舐めて準備もそこそこに来たのが間違いだった。ありゃ銀冠サイズだぜ。もう何人も怪我人が出てる。」
 男は悔しげに呟くとイザヨイと御者に会釈すると村に向かって行った。
 イャンクック…鳥のような大きな嘴を持つその形状より大怪鳥と呼ばれることが多いがれっきとした飛竜である。たしかに大きさは一般的な飛竜に比べ小ぶりではあるがランポスなどとは比べ物にならないくらいに強い。駆け出しのハンターが一人前と認めてもらえる、しかし最初の壁はこのモンスター討伐かもしれない。稀に体躯の大きな個体がいるのはヒトと同じ。ヒトと違うのは決まってその大きな個体は通常のものよりもより強いのであった。そんな事を考えているとイザヨイはメルの事が少しだけ心配になった。しかしこの荷車に乗せてもらう時に護衛も兼ねてくれと言う条件で少しとは言え契約金も貰っている。ここで途中下車は契約違反になる。ハンターとして契約違反はしたくないが…。
「あの~御者さん…。」
 しばらく考えてやはりここで降りると伝えようとする。それを制して御者が口を開く。
「…お客さん、ココット村のハンターはお得意様だ。皆が怪我して居なくなっちゃ~商売上がったり。騒動が治まるまでここで停車します。次に動く時は声を掛けますのでしばらく自由にしていてください。休憩でも…クック討伐でも?」
 見識の深い商人から見ればその装備や振る舞いでイザヨイが一流のハンターだと言う事はすぐに判る。それに噂も商売に役に立つから聞き逃さない。ココット村でのイザヨイの評判もちゃんと耳に入っていた。
「…怪我人増えれば薬売れるのに。」
 イザヨイはクスクスと笑うと御者の粋な計らいに感謝しつつ駆け出した。