もはん小話:狩猟の13 十六夜の夜~ココット村~

 幸いな事に月が出ている。満月は昨夜だったので真円の月ではないがそれに近く月明かりと言えども見通しは良好だ。ただそれは村のように開けた場所であるからということも忘れてはならない。朝日が出てからでも遅くは無いと言う村長であったがそれならば明日の朝、討伐依頼を出せばよい話である。村長の意図するところは理解出来た。とりあえず様子だけでも見てこようとイザヨイが準備を整える傍らサンクが愚痴をこぼす。
「だいたい村長も冷たいっス。HR13以上ってとこもそうだけど生死不問だなんていうっスから。」
「13でもちょっと厳しいかも、それに生死まで問うと無理しちゃうでしょ。生存【1】が【0】になっちゃうよ。ハンターなら自分の不始末をヒトに廻さない事も重要だしね。」
 今だ改造の終わらないインジェクションガンの代替品としてナルに借りた片手剣を装備し準備完了。ナルは昔を思い出したのかニヤニヤと笑いながらなかなかに無茶な武器を準備してくれたのだが…しかしコレで十分だった。臨戦体勢にスイッチするイザヨイ。運搬や採集もハンターの仕事と認めてはいるが何も考えずただ狩る事に集中する討伐はもっともハンターらしい。ここのところ見ず知らずのメルの事も含めて余計な事に頭を使いすぎたと感じているイザヨイは討伐が済むまではその事だけに頭を使うと決めた。
「だけど頑張れば【2】になる事もあるっス。うう、いちこさんまで冷たいっス。」
「イザヨ嬢。ヤッパゴ一緒スルベカ?」
 ツゥも討伐依頼を受けては居たがイザヨイとは別行動、明日の朝出発して現地にて合流する手筈になっていた。  
「とりあえず今夜は様子を見てくるだけ。何かあっても一人のほうが逃げやすいし。」
 それに…とイザヨイは満月から一日遅れの月を指差すとにゃは~ん。それにウィンクをひとつ。
「大丈夫。今宵は十六夜。…私の夜だよ。」

 ベースキャンプでは数人のハンターが夜明けを待っていた。夜明けと共に飛び出していく算段であろう。先行しようとするイザヨイを見ても何も言わない。経験を積むほどに他のハンターには干渉しなくなるものだ。自分の力量を正しく測り行動する事、他人に行動を左右されるようではまだまだ半人前なのである。
 サンクやツゥには見てくるだけと言い、実際ここに来るまではそう思っていた。しかし狩人の血とも言うべきか。この暗闇でもしも運良くメルを発見、そしてその状況が最悪の事態であった場合にはその場で障害は排除する気になっていた。なにげに自らのクロオビシリースを見るイザヨイ。無様に返り討ちにはあえないなと思いながらも装備するに見合うだけの力量はあると自負もあった。
 討伐依頼が出た後、ココットの森に入っていったハンターはメルを除く二人、イザヨイとさらに先行するブランカだけであった。
 注意深く森を行くイザヨイ。もしかしたら思いとどまってるかもしれないと旧ベースキャンプ跡地に向かうがフクロウの鳴き声が響くのみ。さらに進み通り抜けの森では茂みには近付かず真中を歩いた。発見される事よりも死角よりいきなり飛び出されるほうがとっさの対処が難しくなによりもそれが怖かったのである。案外このまま夜が明けてしまうかもと思ったその時、松明の光だろうか?ぼんやりと光るその場所で剣撃の火花が走った。