もはん小話:狩猟の14 メルとイザヨイ~ココット村~

 幻想的とも言える森の中。小さな明かりによって長く伸びた幾本の影。揺らめきながらも激しく伸び縮みを繰り返す。
「あれがメル?メル=フェイン?」
 イザヨイは抜刀しながら慎重に近付く。ぼんやりと浮かび上がるメルの口元はうっすらと笑みを浮かべていた。一人、ランポスの群れの中に立ち東方より伝わりし鉄刀を力任せに振り回しながら。攻撃と言うにはあまりにも雑。振り下ろす刀が弾かれようがお構いなし。でたらめに地面を転がりながらブンブンと振り回すのみ。
 しかし運良く、ランポスにとっては運悪くだがその未熟な剣がランポスを捕らえた。その瞬間、貴重な鉱石により研磨された鋭い刃が未熟なメルに力を与えるとランポスは真っ二つになった。ハンター達の間で俗に言う優れた武器の性能に頼った戦い方であるがあれでは全てを屠る前に自らの体力が尽きてしまうであろう。今現在ランポス達はその勢いに押され攻撃を躊躇してはいる。しかしメルが疲労したと見ればすぐに反撃に転じるはず。そしてその時は近い。
 メルはかなりの怪我をしているようだ。イザヨイの慎重な足取りはゆっくりと加速を始める。さらに加速、最高スピードに達したイザヨイは一度深く体を沈めた状態からすばやく伸び上がると、痺れを切らしてメルに飛び掛るランポスを弾き飛ばす。勢いを残したまま下から上へと切り上げると今度は躰ごと右回りに大きく回転。鮮やかな三連撃でランポスを沈黙させた。
「誰?」
 メルは一言だけイザヨイに発する。しかしイザヨイは答えない。とにかく廻りのランポスを討伐してこの場を離れる事が先決だ。たぶんランポス達は既にドスランポスを呼んでいる。ドスランポス単体であればイザヨイの敵ではないかもしれない。しかし狡猾なドスランポスは配下のランポスによる波状攻撃を仕掛けてくるだろう。いくら弱い相手だとしても数で押されるのはあまり有利な状況とは言えない。今は少しでもランポスの数を減らしメルを連れて逃げる。そう思い答えを返すのは後回しにした。
 ふたたびメルは微笑を携え不運なランポスを両断していく。イザヨイの参戦により劣勢と見て逃げ出そうとするランポスに対しても後を追うそぶりを見せる。メルは逃げ切ったランポスが視界から消え去ると、今度は傷付き動けなくなったランポスに剣を突き立てる。噴き上げる鮮血の中に佇むこの少女はいつも独りでこうやって生きてきたのだろうか?イザヨイにはなぜかそれが”皆殺し”という残虐な行為というよりも、何かに怯えつづける幼子のように見えた。
「メル=フェイン?だよね。私はイザヨイ。とにかくココを離れましょ。」