もはん小話:狩猟の8 蟲銃の少女~ココット村~
初夏の日差しが心地よい季節。繁殖期を終えたアプトノスなど、食用獣の全面狩猟解禁も近い。辺境の小さな村にも様々な素材を求める行商人達が顔を出し始めると本格的な狩りの季節である。
そんな季節を迎えるココット村の外れにある一軒の木造家屋。元々は親を無くした幼い姉妹が住んでいた住居であったが、数年前に自立していた姉の帰村とともにその一部を改装し小さいながらも武器屋を営んでいた。
いくらハンター達が多く住まうココット村にあるとはいえさすがにこの辺境の地では繁盛しているとはお世辞でもいえない経営状態である。しかし若き店主ナル=フェインが一人で受注から製造までを請け負うその仕事振りに依頼は絶えず、そして少数ながら遠方よりの受注も入ると言う。特にボウガンの強化、調整に置いて精度が高く一部のハンター達はわざわざこの店を訪れては依頼をしていくらしい。今日もそんなモノ好きな少女がその店を訪れていた。
「良い村ですね。皆に活気があって、なによりもハンターが多い。やぱしあの”ココットの英雄”の村でもあるから…かな?」
訪れた少女は麗しき深窓の令嬢といったところか。見た目が…という訳ではない。実際その少女はクロオビシリーズと呼ばれる辺境では、いや辺境で無くてもちょっとお目にかかる事が出来ない珍しい鎧を全身に纏い、一目でハンターである事が見て取れるのだから。
しかし何故かその柔らかな物腰がどこかそうイメージさせるのである。店主はこの少女と昔からの顔馴染みでもありそんな事を言えばきっと吹き出してしまうであろう。
「ハンターが多いのは他にやる仕事がないからさね。それにハンターとは名ばかり、たんに血の気の多い奴ばっかりさ。」
店主のナルは少女が持ち込んだインジェクションガン。巨大昆虫の甲殻や稀に採取出来ると言うドラグライト鉱石をふんだんに使ったヘヴィボウガンを眺めながらそう答えた。
「需要があるから供給も…ですよ、首都なんかに居ると野生の飛竜はおろかハンターにもなかなか出会うことはないですよ。ここにはまだまだ私達のようなものを必要とする仕事ありそうだし。」
「そうかい。」とナルは相槌を打つと少女のボウガンを二つ折りにして作業台の上に置く。そしてエプロンのポケットからファンゴの皮を薄く叩いて延ばした豚皮紙の伝票を取り出すとランゴスタの羽ペンを走らせ見積もりを取る。
「…んでコイツは限界値レベル5への改造でいいんだね?」
少女が首をこくんと傾けるのを確認するとナルは豚皮紙の見積もりをぽんとカウンターに置いた。どれどれと覗き込む少女にナルが質問をする。
「んじゃしばらく預からしてもらうさね。…時にイザヨイ。このボウガンが作られた経緯を知ってるのかい?」
イザヨイと呼ばれた少女は少し間を置いて「もちろん。」と頷く。
「滅龍弾運用実験の為の試作ボウガン。今回のはその為の強化でもあります。まあ私的には麻痺弾の使い勝手が良いってのが一番の選択理由なんですけど。」
ナルは怪訝な表情をしながらもう一つだけ質問をする。
「ふん…。ということはまたアレが近付いてる…さね?」
「ええ、その通りです。私の住むミナガルデに…。」
イザヨイは神妙な表情をしながら言葉を詰まらせる、そしてかすかに震えながら口を開いた。
「ところで、教か…いやナルさん…これ…。」
イザヨイが震えながら指差す先を見るナル。そこには先ほどナル自身が見積もり金額を記入した豚皮紙があった。
「これ…もう少しまかりませんか?」
ナルはフンと不敵に鼻を鳴らすと「惜しいさね、明日だったら半額の日だったんだけどねぇ。」と笑った。