もはん小話:狩猟の6 朝靄の狙撃~ココット村~

 水平に放てば重力に引かれて遠くまで届かない。そんな時どうするか?
「簡単なことだ。すこ~しだけ上に向けて放つ。」
 言うのは容易いがたったそれだけの事でこんな風に簡単に獲物に命中するものだろうか?この長距離かつあの体躯に対しての比率で言えば極々小さな標的の目玉だけを狙って。
 
 谷回りの道は平坦だがそれだけ距離も長い。ハンター達は少し危険であるが距離の短い森を通過する事が多い。いつからかそこが「抜け道の森」と呼ばれる細道にしゃがみ込む女と少女の二人組。共にボウガンを背負っているので一目で二人はハンターだと分かる。さらに詳しいものであれば彼女らの事はガンナーと呼ぶであろう。大量発生した巨大昆虫討伐の為、早起きをしてジャングルへ向かう途中であった。
「先輩、あれなんスか?」
 ろくな防具も付けておらずほとんど裸の少女はその名をサンクと言う。古びたアルパレストを背負っているが肩にかける留めベルトの持て余しぶりを見る限りとてもベテランには見えない。訛りのある独特な言葉を喋るのは元々ココット村で育った訳ではないかららしい。
「…なんだと思うか?」
 先輩と呼ばれた女はボソボソと答える。凶暴な獣を前にしてお喋りをする事は余り好ましく思わないが黙ったままにするとサンクはさらに大声を上げかねない。もう一人の女はクリオ。漆黒の鎧を全身に纏い注意深く視界の先に目を凝らした。その背には真っ白なヘヴィボウガン、そしてその射出口にはなにかの白いたてがみが風に揺れていた。ちょっとしたハンターの集まる街であればきっと羨望や嫉妬の的になることは間違いない装備品の数々であるが同行するサンクにはその価値すら分かってはいないようであった。
「自分、目はいいっスから見えるッス。なんか蒼デカいトカゲッス。」
「…目だけはだろ?」
 ヒドィッス…と言いかけたサンクの口を左手で制するとクリオはその違和感に気付く。何か咥えてるようにも見える。まさか…。普段であれば迂回するなりしてやり過ごす状況であるがクリオはゆっくりと背中のボウガンを展開する。そして取り付けられたスコープを覗き込むと一瞬だけ頭に血が上るのを感じたが静かに息を吐くと呼吸を整えた。
 サンクに蒼いトカゲと称されたのは昨晩メルを襲ったドスランポスであった。付近に散乱する赤い固まりと鎧。転がるボーンククリが全ての状況を物語っていた。
「先輩、この距離からだと無理ッス。届かないと思うし。それに当たっても弾かれるッスよ。」
 ガチャリと貫通弾をチェンバーに押し込みながらクリオはサンクに言う。
「やっぱサンクお前、目だけは良いな。たしかに有効射程からは外れてるよ。」
「ならもっと前に出て…。」
「お前なぁ…やっぱボウガンやめて大剣にしろ。それならご希望通り、いつでも密着して戦えるぞ。それになぜここで止まったか分かってない時点でガンナーとしては失格だ。これ以上前に出て奴に気付かれてどうする?」
 クリオはスコープを覗き込み、森を抜ける風を読みながら狙いを定めていく。
「でもこっからどうやって…。」
 クリオはターゲットクロスをドスランポスの上方へ、ゆっくりとその射軸を上方へとずらしながらニヤリと笑った。

「サンク!追うな!」
 クリオの放った貫通弾は綺麗な放物線を描くと迷うことなくドスランポスの左眼に命中した。至近距離であれば貫通による多段ヒットが期待できる弾丸ではあるがこの超長距離からでは柔らかな眼球を撃ち破る程度の威力しかない。しかしそれで十分だった。突然の激しい痛みに逃走を始めるドスランポス。ガンナーである事を忘れすぐに後を追いかけようとするサンクを嗜めながらクリオはヘヴィボウガンをたたむと背中に背負い直した。
「追い詰めると突然襲ってくることもある、それに今日の獲物は奴じゃない。」
 ドスランポスの去った後は壮絶なものであった。ヒトいやハンターであったらしきモノは男であるのか女であるのかそれすら分からないほど破壊されており一体何人の死体であるのかすら想像がつかない。サンクは寝坊して朝飯を抜いた事を今は少しだけ感謝した。
「うぐっヒドイ状態ッスよココ…。あいつ…。」
 サンクはそのヒトだったモノに同情し逃げたドスランポスに怒りを覚えた。
「…ドスランポスはランポス達を呼ぶ。…一度村長に報告に戻るか?」
 クリオは腕を抱えて巨大昆虫とランポスの群れ…どちらが緊急を要するかを整理する。その時サンクが横穴の奥に横たわる少女を見つけ大声を張り上げた。
「先輩!誰か倒れてる…ん…めるめる???」
 元々意識はあったのだろうか。聞き覚えのあるその声に反応しメルはゆっくりと起き上がるとどこか虚ろな眼差しで無邪気に微笑んだ…。