もはん小話:狩猟の22 ミナガルデへ~ココット村完結~

 結局ぞろぞろと現れる怪我人を乗せ待機していた荷車と共にイザヨイはココット村に一度戻ることになった。そして村長の計らいでイャンクック討伐の功労者に対してささやかな宴が開かれた。
 並んで座るイザヨイとメル。討伐は二人で行なわれた…となっていた。
「いっちゃんは…余計な事だった…もん。ちゃんと当たったでしょ、メルの攻撃だって。」
「まぁねぇ…。そっか~。」
 イザヨイは少し寂しげではあるが微笑む。同席するナルは思い出した。この少女は悲しい時ほどこうして微笑むのである。
「おぉ!めるめるも活躍したんスか?」
 ほんとはいちこさんの活躍でしょ~と言わんばかりにニヤけるサンク、その両手にはこんがり肉。
「した…少しだけ。」
 討伐の瞬間の自分とイザヨイを思い出し、さすがに恥ずかしさを感じて語尾を濁すメルではあったがやっぱり素直になれなかった。

「ふぅ、お腹いっぱいだね。」
 盛り上がる宴を少し離れて眺めるメルに近寄り話し掛けるイザヨイ。メルは黙ったまま。何か話題はないかと考えるイザヨイはメルの新しい防具を思い出した。
「あのランポスメイル、ちょっといい色だねぇ。クックの攻撃をまともに受けきったとこを見ると防御もそこそこあるみたいだし。」
「…どうせ一流のいっちゃんから見たらつまんない防具だよ。」
 なぜか前以上にイザヨイに食って掛かるメル。確かにプライドは傷付けたかもしれないけど…あまりのイジケっぷりになんだかちょっとだけ怒りを覚えるイザヨイ…普段なら、他の人にならそんなことはないのに。
「辺境のこの村で終わるだけのハンターならメルちゃん、貴方のそれでも大丈夫。これからもその装備が守ってくれるから。」
 思ってもみない言葉が咄嗟に口に出る。はっとするイザヨイは言った直後に激しく後悔した。
「…メルをバカにしに?実質クックを倒したのはいっちゃん一人で…だもんね。」
「ん~そんな気はないよ。そんな風に見える?見えた?…ごめん。」
 素直になりたいのに憧れの気持ちが大きくなればなるほどになぜか意地を張ってしまうメル。そんなメルに単に嫌われてると思い込むイザヨイ。黙り込むそんな二人を見ていたナルはやれやれと首を振った。

「いくらなんでもそろそろ起きてもいいんじゃないかい?」
 昨晩宴の途中で酔いつぶれたメルに声を掛けるナル。部屋に運び込まれた後延々と眠りつづけるメルの部屋の窓からは既に赤い夕日が射し込んでいた。
「イザヨイは帰っちゃったよ。」
 ぼんやりと視点の定まってなかったメル、一度は跳ね起きた。しかし。
「…そお。」
 一言呟くとまた布団に潜り込んだ。
「そぉってそんなものかい?この娘はほんと不義理だねぇ。」
「…そんな事言うならナル姉、起こしてくれたらよかったのに。」
「イザヨイが「起こさないで」って言ったさね。」
「…やっぱ怒っちゃったかな…。」
 ナルはふぅとため息を付く。
「心配してだよ!バカだねぇ、ほんと。ハンターどころかヒトとしてもバカだよ。あの娘がそんな人間かい。ニコニコといつも笑ってアンタを大事にしてくれたじゃないか?この村じゃ嫌われ者だったアンタをクック討伐の英雄にまで…英雄はまあ言い過ぎだけどずっと最後まで笑顔で助けてくれたのに。」
 メルは黙ってナルの言葉を聞いていた。声を抑えて涙を流しながら。
「一つ言っとくよ、あの娘の笑顔の裏にある悲しみが解るかい?まぁアンタじゃ解るまいね。自らの分を認めず差し伸べる手さえ跳ね退ける。そんなつまんないプライドを持ったまま死ぬがいいさね。自分の事ばかりで仲間を大事にしない奴は早死にする…これはずっと変わらないハンターの真理さね。」
 ナルはメルの返答を静かに待った。愚かだが最愛の妹の答えはたぶん…。
「ナル姉…。」
 相変わらず布団から顔は出さない。大事な事を言う時はいつもこうだ。
「メルね、ミナガルデに行ってみようと思う。」
 予想通りの答え。ナルは愛しい妹を抱きしめたかったがグっと我慢した。
「なにしに?アンタみたいなへたれが行っても、のたれ死にに行くようなものさね。」
「メルだけならたぶん…でもいっちゃんに謝って…仲間にしてもらう。たぶんいっぱい迷惑掛けて沢山助けてもらうと思う。その時に今度こそ「ありがとう」って言う。」
 ナルは歩き始めるメルに幸多かれと心深くで祈りながらもぶっきらぼうに答えた。
「…ふん。好きにするがいいさ。ただ一人前になるまで帰ってくるんじゃないよ?」

 辺境の小さな小さな村、ココット。もともと英雄と呼ばれたハンターが狩りで命を落とした恋人の眠るその地を守っていただけの場所。そこに人が集まりいつしか村になったという。西シュレイド王国の各地で活躍する多くの優秀なハンターを輩出するがゆえにそのようなお伽話が出来たのか、はたまた本当にそうして出来た村であるか、実際のところは分からない。
 そこに生まれた一人の少女。始まりの村でありそして終焉の村でもあるはずのその場所でハンターになりそして今自分の足で歩き始める。旅支度を終えた少女の目指すはハンターの街ミナガルデ。
 若くそして未熟なハンターである少女は、しかし後ろを振り向かずにただ前だけを見つめて旅立っていった。

(~ココット村~完結)