もはん小話:狩猟の16 怯える獣〜ココット村〜

 睨み合ったまま動かないメルとイザヨイ。樹木の隙間を通り抜けた月明かりだけがスポットライトのように二人を照らしていた。夜行性の羽蟲がゆっくりと二人の間を横切る。二人は目だけで羽蟲を追うと羽蟲はその二つの視線を避けるように闇に消え去った。二人同時に視線を戻すと同時に目が合う。妙に可笑しくなりどちらからとも無く声を出して笑った。ひとしきり笑うと緊張の解けたメルがイザヨイに言う。
「イザヨイって言ったっけ?…ん~いっちゃんでいいや。ともかくメルはこの森で一番強い獣になりたいんだから邪魔だけはしないで。」
 メルは案外本気で言ってるのかもしれない。いろいろと反目する想いはあった。しかしイザヨイはその姿勢を正そうとする事は止めた。自分もまだ修行中の身であり迷いながら生きている。それにいろんな生き方があって然り。そういうハンターが居ても面白いかも知れないと思ったから。
「好きにすればいいけど…。目の前の獣さんなら容易く狩れちゃうね。この森で一番弱いらしいヒト、私みたいなハンターでも。てか…悪さする前にいっそ今のうちに狩っちゃおかなぁ?」
 イザヨイは冗談を言いながら腰の片手剣をポンポンと叩いた。ニヤニヤと笑っていたメルがその片手剣、ボーンククリを見て突然無表情になる。
「…そんなの持ってたら死んじゃう…やだやだ…やだ…。」
 メルの声は小さくイザヨイは良く聞き取れなかった。何?と聞き返そうとするイザヨイ。メルはビクビクと辺りを見回すとイザヨイの手を引きいきなり駆け出す。
「ちょ…ちょっと待って!何?突然?」
「いいから!早く!あそこに入らないと殺されちゃう!」
 メルの指差す先は通り抜けの森の奥、ドスランポスに追い込まれたあの横穴であった。

 月明かりに照らされるどこか静か過ぎる丘にブランカは一人立っていた。メルを探しに森に入ったはいいがそこでは森の盗賊、猫獣人メラルーに装備品を盗まれそうになりすぐに取り返したものの、代わりに貴重な時間を取らてしまった。そのせいでメルの足取りを見失っていた。見つけたものと言えばランポスの亡骸数体のみ。足跡やランポスの切断面から少なくとも二人以上のハンターがその亡骸を作ったと思われる。大剣での袈裟斬りと思われるランポスもあったが目的のメルは単独で行動しているはず。しばらく考えてどこかで何かの動きがあれば森の動物がざわめく、そう判断したブランカは森が一望出来る小高い丘に来たのである。
 青い月明かりでさらに蒼く光る【老山龍砲・皇】を展開しその望遠スコープを覗き込む。月明かりもあって視界は予想より遥かに良かった。しばらくスコープの倍率を変えながら周囲を見渡したが森は静かなまま、むしろ静かすぎるくらいだった。さすがに一人で探し物をするにはここは広すぎる。メルの足取りくらいはすぐに掴めると思っていたのだが。
「ちょっと私も軽率だったかしら?困ったヒト…は私ね。」
 ブランカは森に駆けて行ったメルにペイント弾の一発でも当ててればよかったかしら?と苦笑いした。
 その時丘の入り口で何かが動いた。ブランカはスッと目を細めると静かに息を潜める。丘の入り口は切り立った岩石で囲まれていてちょうど影になっていて良く見えない。少し距離もあったのでちょっとした油断もあったのかもしれない。スコープを覗き込んだ瞬間、その影は想像以上のスピードで視界から消えた。
「やばい!」
 ブランカは肉眼で確認しようと顔を上げたそこには…バルセイト・コアを構えたツゥが立っていた。
「…ン。じみータンカ?ドウシテコンナトコニイル?」
 結局イザヨイの後を追う事にしたツゥは単身ブランカと同様のルートを辿りここに来たという。
「ジミーって呼ばないで。それよりツゥさん?貴方こそ近頃【山猫亭】で顔見ないと思ったらこんなとこで何を?」
 二人はミナガルデにある酒場の常連同士でありお互いに意外な場所で意外な人物に会った事を驚いていた。

「…ということはそのイザヨイって子とメルが合流してる可能性はあるって事ね。」
「ソウダナ。テコトハ…アノとかげハフタリデヤッタ罠?」
 そう考えるのが妥当ね、ブランカはそう言うと立ち上がる。サシミウオを丸かじりするツゥも後に続こうとする。ふと森のほうを見るブランカは鳥達の羽ばたく姿を目にする。そして静かだった森に耳障りな叫び声が響いた。


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