もはん小話:狩猟の10 いのちの重さ~ココット村~

 やはり自分は貴族達には馴染めない。例え生まれが…だったとしても。それに火竜の卵なんて大味でマズいに違いないと思うし。何より見栄と欲望の吹き溜まりで「ワタクシ先日火竜の卵をいただきましたの。オホホ。」って言う為だけに…やがて生まれ来るはずの命を、時にはハンターの命まで引き換えにして得る価値をそこに見出すことなんて出来ないし、したくない。
 そう思いながらも私達ハンターはそんな貴族達の為にせっせと火竜の卵を運ぶ。明日の糧を得る為に。ハンターは自らの命も含めた様々な命と引き換えに報酬を得る。そして貴族達は様々な報酬、例えば時には大金と、時には貴重な素材とを引き換えにしてつまらない見栄や空虚な名声を得る。
 命の重さってどのくらい?ハンターである故の偽善とも思えるこんな気持ちを抱いて、そこに違いを探してみたってたいした違いなんてないのかもしれない。千差万別、お金持ち、貧しいヒト…そんな誰かの依頼と言う大義名分を作ってみても結局誰も彼も天秤に掛けた自分の命が一番重いだけ。もしこの卵が恨みの言葉を言えたとしたら運んだ私と頼んだ貴族、どちらにその言葉を投げかけるのだろうね。

「いや!ちがうんッス。めるめるは今でもちゃんとハンターなんッスよ。」
 サンクは大きな火竜の卵を両手に抱えながらちょこちょこと小走りしつつ丘を駆ける。そして隣を行くイザヨイに向かって突然に昨晩の話題を続ける。相反する二つの思いに葛藤を抱いていたイザヨイはサンクの声の大きさに驚き一瞬卵を落としそうになる。しかし一度立ち止まって深呼吸し体勢を立て直す。昨晩あの酒場で意気投合した…サンクに無理矢理投合させられた感じでは有ったがその三人で今日はどういった訳か火竜の卵を運搬している。もし暇にしてるならとサンクがどこからか受領してきたクエストらしかった。
「ん~自分の考えを言わせて貰うならね…だって依頼もなくただ獲物を狩るなんて。自分の意志だけで他の生き物の命を奪うなんてハンターじゃなく、ただの殺戮者って思えるんよ。まあ本人知ってる訳じゃないからほんとのとこはわかんないけど。」
 長くハンターを続けている今でも命を奪う事には抵抗がある。だからこそハンターは依頼と言う”言い訳”を準備して狩りに出るのだ。イザヨイはそう思っているからこそメルに興味を覚えてしまう。思う様に狩るだけの、それでもハンターであり続けているメルに。
「めるめるはその…その…すごく怖かったんだと思うッス。だから今はあ~だけどきっとまたそのうち元に戻るッスよ。」
「はんたート殺戮者ノチガイモサホド明確デハナイ罠。マァメルメルトヤラハ知ラナイガ、サンクタソヨ…期待ハモタナイホウガイイ。イチドきれルトコワイカラナ…ひとモ、けものモ。」
 もう一人の同行者、バルセイト・コアを背負う女はツゥと名乗った。とは言えそれが本名かどうかも定かではなかったが。かなりの実力者である事は巨大なハンマーを背負ってもふら付かない足元の確かさやその博識な言動より明らかであったがノラリクラリと正体を見せない。しかしなぜかサンクの事が気に入ったらしく今日の卵運搬にも進んで付いてきたのである。
「ドチラニシテモイソイダホウガヨイナ、親竜ガスグソコマデキテル。」
 ツゥは風に乗ってくるかすかな硫黄の臭い、巨大火竜の吐息を嗅ぎ分けていた。サンクはきょろきょろと辺りを見渡すと首を竦めて足を早めた。

「いつもすまんな、サンク。奥様もお喜びになるよ。ほら約束の【たまご券】。あんたと…そっちあんたにも。」
「助かったッス。いつもは一人で三往復なんスよ~。ありがと~っス。」
 結局一度も武器を振るう事も無く約束の卵3個を納品した三人はそれぞれに報酬を受け取っていた。サンクにはある目的があり報酬はたまご券が良いとクライアントに言っていたらしい。他の二人についても報酬は現金ではなく擬人化された卵が描かれたチケットで支払われた。
 単にサンクを手伝う気持ちだったので報酬には不満はない。むしろサンクの喜ぶさまがなによりの報酬である。ピラピラとそのたまご券を振り、イザヨイは自分の命だってこのチケット…そう、この紙切れ一枚くらいなんだよね、なんてぼんやり思いながらも浮かれて踊るサンクを見て、そしてツゥと顔を見合わせて笑った。