もはん小話:狩猟の11 白撃の射手~ココット村~

 アプトノスに牽かれガタゴトと揺れる荷車。ミナガルデからの定期便、行き先はココット村。荷台にはたくさんの商品と沼地の途中から便乗する二人のハンター。一人は保護油布で巻かれた鉄刀【神楽】をしっかりと胸に抱きじっと進行方向を見つめるメル。ギリギリと歯軋りをしている。そんなメルを眺めるもう一人はガンナーだろう。ランポスでも魚竜でもないそれ以上に鮮やかな蒼鱗の火避けが目を引く巨大なボウガンの手入れしている。
「まったく…困った人ね、貴方も貴方のお姉さんも。」
 たまたま愛用していたクイックキャストがナル製だと知ったのが2年前。それ以降、店のお得意様となったガンナーである。当然メルとも顔見知りで彼女が訪れる度に話す土産話もメルのハンターへの憧れを作った要因のひとつでもある。その名が示すように白い防武具をこよなく愛すガンナー、ブランカであった。
「あはは、助かったぁ。ブランカさん。…やっぱあのへんなのはちょっとだけ強いね。あはは。」
 メルは単身洞窟に住まう異形の竜に挑み、当然の事ながら返り討ちにあっていた。メルにとってちょっとどころの強さではなかったはずだ。鼓膜を引き裂くような咆哮にその意思とは裏腹に手足は竦んだ。醜悪な口から吐き出されるその強力な電撃弾に意識を失いメルは文字通り頭から丸呑みにされかかっていた。運が良かったとしかいいようがない。そこをたまたま通りかかったブランカが救ったのだった。
 ブランカが追い払った異形の竜、名はフルフルというがそんな名前すら知らないメルがボロボロのままでさらに追撃をすると言う。さすがに知った娘のそんな自殺行為を許す訳にはいかないという事でブランカはメルを無理矢理に連れてココット村行きの荷車に乗ったのだった。
「だいたい、メル?クックすら狩った事もない貴方がいきなりフルフルを狩ろうなんて無茶もいいとこね。無茶苦茶だわ。それにね、洞窟で大人しくして悪さしてる訳でもないでしょあの子。」
 ブランカはまるで子供に言い聞かせるように話す。別にメルを子供扱いしているわけではない。相手が誰であろうと万事この調子なのだ。
「だって~電気袋が欲しくって。聞くとアイツの臓器にそれがあるって…だから貰っちゃおって思ったの。クスクス。」
「貰っちゃお…って。ああ、それ【斬破刀】にでもするつもりだったのね。そんな簡単には無理よ。困った人ね…。」
 メルの【神楽】を指差しながらこの間メルに逢った時はいつだったかしら。ブランカは考える。考えれば考えるほど”こんなメル”には逢っていないような気がしていた。
「…ツヨイブキ…ホシイシ…。あ!そいえばナル姉も困ったちゃん?」
 一瞬無表情になるメルだったがブランカはそれに気付かなかった。笑顔に戻るメルはブランカの「貴方も貴方のお姉さんも」と言った言葉を聞いているのだろう。
「このボウガンね。サイト調整がピーキー過ぎて使えないのよ。あとね、リロードも丁寧にやらないとすぐにジャムるから。」
 ブランカは手元のボウガンを指差すと苦笑する。
「んん、ブランカさん試射してなかったっけ?」
「私はその…使えるんだけど私のじゃないのよ、コレ。…いや…その何て言うの?…今は私のになったちゃったんだけど。」
 元々は仲間のガンナーが作成したいと言う【老山龍砲・皇】を腕のいい職人が居るからとブランカが素材を持ち込みナルが作ったものである。ナルは持ち込まれた素材と持ち込んだハンターに合わせて少しだけカスタマイズする。そしてブランカの試射に合わせて作ると何故かピーキーかつデリケートな作りになっていたのであった。当然仲間のガンナーにとっては無駄な調整でしかなくこんなボウガンは使えないとつき返されたのであった。使えない訳ではない、むしろ使いこなせば強力なボウガンである。ただ使いこなすのにはそれ相応の腕が居る。ブランカのように。
「…ならいいじゃん。」
 メルはそう言いながら【生肉】を荷車で焼き始める。
「あら…そう、あら?…あら?いいのかしら?」
 ココット村まであと半日。ブランカはそのおいしそうな香りを嗅ぎながらも首を傾げるのであった。